ホーム > ライブラリー > 197号(1987年4月)> 伊東建築設計事務所の明日を展望して

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伊藤建築設計事務所の明日を展望して
ハードだけの技術者集団にならないために・・・
柳澤 忠/鋤納 忠治

■楽しい建築を表現した新文化会館コンペ応募案

柳澤 名城地区のコンペは惜しかったですね(1987年、愛知県が「新文化会館」建設のために行ったコンペ)。もう審査結果が公表されましたので、少し話をしても構わないと思うんですが、惜しくも優秀作品となった4案のなかで、最優秀の日建設計案と最後まで激しく競い合ったのが、実は伊藤建築設計事務所案だったんです。実質的には2位といえる。もちろん、私も、どこのグループが提出した作品かは、審査が終わったあとでわかったわけですが、私自身は2位のほうにある種のメスピリットモを感じていた。

鋤納 お褒めにあずかって恐縮です。ご存知のように、現在の愛知県文化会館は全国コンペだったんですが、確か私が大学3年のときでした。それが、私にとって、コンペとの初めての出会いであったわけです。
柳澤 図書館と美術館と音楽中心のホールという3つが一緒になった建物ですね。当時、全国的にかなり注目されたコンペで、小坂さんという方の案が1等になった。こんど、いろいろな事情から建て替えられることになったけれど、うれしいことは、とても大切に使われていて、いまでもちっとも古ぼけていない。
鋤納 私が就職して名古屋へ来ましてから、その文化会館に30余年来親しんできたわけですが、それが今度建て替えられることになって、しかもコンペになるということで、これは何としてでも応募をしなければならないと考えたわけです。コンペが栄地区と名城地区の2つに分かれまして、われわれの事務所でこれに応募するのは大変なことだったのですが、万難を排してでもやろうと・・・・・。時期が重なってもおりましたので、栄地区のほうは名古屋事務所で、名城地区については東京事務所で応募をしました。栄地区のほうは一次審査で落選しましたが、名城地区のほうでなんとか入選を果たすことができまして、まぁ何とか面目は保てたのではないかと思ってます。

柳澤 私は、1位2位は非常に対照的な作品ではないだろうかと感じたんです。1位のほうは、どっちかというと機能優先というか、プランニング優先で、エレベーションも、入口ホールも、閲覧の広いスペースについても比較的まじめに押さえて設計している。非常に重厚で品のいいデザインだという講評が出ています。それはそれで大変確かな作品です。日建設計という大きな組織で、社会的にも信用を持たれている事務所の作品としてふさわしいもののようにも思いました。それに対して伊藤建築設計事務所の案は、非常に新鮮なデザインで、図書館にありがちな、何かまじめくさった堅さというのではなくて、入口のところがガラスの曲面になっていて、その前に広場がある。そこからアプローチするという、第一歩からやわらかいアプローチになっている。中に入って吹き抜けの空間があって、自然に空間が流れているような感じです。非常に図書館らしくてまじめで品のいい作品と、せっかくこれだけのコンペをやったんだから何かもう一味なくちゃいけないんじゃないかという気持とのせり合いだったような気がします。ただ、はっきりいってしまえば、図書館の専門のかたなどがご覧になってもっとも安定感のある、安心感のあるプランというのは、どうしても、日建のものであるという感じがしたんです。そこで審査員の意見が分かれたんだろうと思います。いずれにしろ、あれだけの仕事をまとめるのはかなり大変なことだったろうと思いますが、これが伊藤建築設計のコンペの中興の作品になるのではないかという気がします。
鋤納 私どもの案の1つのポイントとしては、地下鉄が敷地をほぼ45度で斜めに横切っているものですから、それにとらわれる構造にするか、あるいはそれにとらわれないで、それはそれで架構を組んでやるかというところで、大きな岐路があったと思います。私どもでは、地下鉄の上に建物を建てた経験がいままでに割合たくさんあり、地下鉄を門型の架構を組んでカバーし、その上に建築構造体をつくった経験もあるものですから、今度も低層の建物でありますし、どうしても地下鉄の線路にとらわれておりますと図書館としてのプランが成り立ちにくいという判断かから、トンネルの両側にピアを降ろして、それに梁をかけた門型架構で建物を持たせるという構法に踏み切ったわけです。そのために割合すっきりした平面構成がとれたと思います。デザイン上の大きな特徴としては、建物の南と東の両方からの正面性を持たせようということで、正面の入口はガラス張りでカーブした、南、東両方に正面性があるような外観として、併せて建物の内部の機能をそれぞれ外観に表現したつもりです。玄関とかロビーはカーブしたガラスのところでやわらかく出して、閲覧室関係は少しデザインした窓で並べました。とくに、4階のホールの部分は、なかなか、まとまりのいいプランになっており、4階だけはちょっと違う扱いにしました。ですから、建物の外観で内部の機能がだいたい想像がつくようなデザインをとったのです。そいう点で、少しデザインの要素が多かったかと思います。楽しい建築というふうにおっしゃっていただいたのですが、そういう点はたしかに意図したところです。サンクンガーデンを設けて地下の閲覧室を楽しくしたり、管理部門なんかもかなり優遇したり、食堂なども楽しいものにしたつもりです。いずれにしろ、たくさんの応募案のなかで最後まで残って、かなり評価していただけたことは大変ありがたかったと思います。
柳澤 鋤納さんとしてはおっしゃりにくいかもしれませんが、たまたま、日建設計という元いらした事務所といまの事務所が1位、2位になったわけですよね。やっぱり、作品のまとめ方とか、作品に対する取り組み方とか、コンペに対する取り組み方とか、それなりにちょっとずつ味が違うと思うのですが、そのへんで何かお考えになることはありますか。
鋤納 確かに私どもの主要なメンバーはみんな日建設計にいたわけなんですが、伊藤建築設計事務所を創設してちょうど今年で20年になるわけですから、わたしには20年前までの日建しかわかりませんでの何ともいえませんが、根は日建設計にいたということで、多少の影響はあるかももしれませんね。しかし、日常業務における設計のまとめ方とか、取り組み方は違っていると思います。私の考えでは、設計というものは組織でできるものでもないし、また、するものでもない思っております。個人が集まってある集団で1つの設計をするのは間違いないのですが、その場合、個人の能力を最大限に生かさなければ、よりよい成果は得られないと思いますから。したがって私どもの事務所では、組織的な体制はつくっておりません。数人の幹部はパートナーとして、作品ごとに責任をもって担当します。そのもとで事務所の所員が仕事ごとにグループを組んでやっています。全体として渾然一体となってやっているようなかたちです。そして事務所全体としては、これだけの質は確保したい、しなければならない、という一定のレベルはあるわけで、20年間、その点だけは守ってきたつもりです。それと、私どもの事務所のクライアントには、継続的に仕事を出していただける先が多くて、その点は恵まれているわけですが、それだけに、信用を失うようなことは絶対にできません。また、たとえどんな些細な問題でも、問題があったときには、それに対して必ずお応えをするという立場をとっております。そういう点ではわりあいお得意先から信頼が得られているのではないかと思っております。こっちが一方的に思ってやっていることかもしれませんが・・・・・。
柳澤 いや、別に一方的ではないでしょう。私も伊藤建築設計事務所さんとは長いお付き合にがあるわけですが、一連の作品を見ていても、そういう事務所の精神はよくわかります。要するに駄作がないというか、一定レベル以上の作品しか出さないというか、とにかく品質保証がしっかりしているな、という感じがします。事務所によっては、世の中に非常に目立つ作品と、かなりスーッと流していくような作品と、使い分けておられるところがあるんじゃないかと思いますが、伊藤建築設計事務所さんの場合は、そういう発見がなかなかできない。粒が揃ったというか、流した作品がない設計事務所だなというイメージがあるんです。

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