歴史的建造物は貴重な文化遺産であり、それらを保存・活用し次世代に伝えていくことは私たちの重要な役割である。単体の建造物の保存に限らず、集落や街並みに残っている歴史的な景観の面影を大切に残しながら、歴史的建造物を生きた遺産として地域の人々が利活用していくことで、コミュニティの求心力を高め、まちづくりに役立てることができる。ここにも、私たちの職業が社会貢献できる場がある。
旧東海道二川宿 ―― 建造物の保存・再生と街並み整備
旧二川宿(愛知県豊橋市)は、東海道の宿場町で、当時の町割りや本陣などの歴史的建造物が残っており、豊橋市では1983年以来歴史的環境の保全を地区の生活環境の整備や総合的なまちづくりの中に位置づけ、街並み景観の保全・修景と本陣などの歴史的建造物の保全に取り組んできた。 私たちは、文化財に指定された本陣遺構、旅籠「清明屋」・商家「駒屋」の宿場遺構の改修復原工事の実施設計と工事監理に、1987年以来関わってきた。
二川地区では本陣遺構の保存整備が原点となって、伝統的建造物群保存地区とは異なる、より緩やかな歴史的街並み景観の形成に地域が取り組み、新たなまちづくり活動が始まっている。 本陣の保存修理に関わってから30年、振り返ると当時は文化財建造物の保存も再生というかたちで活用する発想はなかった。また、街並み景観もここまで旧宿場町として風情が高まるとは想像できなかった。 地域景観の一部として存在してきた歴史的建造物は、その時間の経過とともに、地域住民に共通した思いや価値観をもたらしていることが多い。従って、歴史的な建造物を大切に守り次世代に伝えていくことは、その地域のコミュニティやアイデンティティーを継承していくことでもあり、ここに歴史的建造物を保存・再生していく上での大きな意義があることを、経験を通して確信した。
澤村喜久夫
『建築画報372号』(2017年9月)より抜粋